主の独り言
2021.09.10
死の拒絶 アーネスト・ベッカー
“死は人間活動の推進力である”
著者は自分でそう定義する。
本著はこの定義に対するアンサーであると同時に、読者に死と言ういつか起こる事象に対し、否応なしに目を向けさせる。
ヒロイズムが人間の性の中心問題である事。文化や娯楽が死を拒絶するがためのまやかしである事。
中々過激な視点である。
と言うのも、訳者が後書きで書かれている様に、戦争も少なくなり、栄養状態も良くなり、医療も発達して平均寿命が長くなっていくと、一方で死の隔離とも言うべき現象が生まれている。その結果、死を正面から見つめる機会は減少し続けている。
だから本著は現代人へのアンチテーゼとして際立ってくると思う。
死が人間活動の推進力であり、活動な主な目的は、死が人間の最後の運命である事を否認・拒絶し、それによって死を克服することにあると断定する著者の考えは、ずしりと心に響く。
逆を言えば、自身の死を見つめ続けることによって、推進力が得られると言えるのではないだろうか。
そう考えると、頭に2人の偉人が浮かんできた。
一人はハイデガー。もう一人は、マルクス・アウレリウス・アントニウス。
ハイデガーは、死への先駆的覚悟性を説き、マルクス・アウレリウス・アントニウスは自省録で全ての行動を死ぬ前の最後の行動としろと説いた。
フロイトの精神分析とキルケゴールの哲学の観点から組み上げられた本著、死の拒絶。
書斎の重要本コーナーに鎮座させようと思う。