お知らせ

2024.01.30

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜

『人間失格』/太宰治

「恥の多い生涯を送って来ました」

第一の手記の書き出しであるこのフレーズが特に印象に残っている人も多いのではないでしょうか。『人間失格』は、太宰治が昭和23年(1948年)の代表作です。主人公の大庭葉蔵の幼年期から青年期までの人生を描いたもので、本当の自分をさらけ出すことができなかった太宰自身の人生と重なる部分が多く、自伝的な小説とも考えられています。

また作品ができたその1ヵ月ほど後に玉川上水で入水自殺し、帰らぬ人となったため、長い間遺書だと考えられていましたが、平成10年(1998年)に遺族が草稿を公開。何度も推敲され、彼の人生をフィクションとして創り出した苦労の跡が随所に残っていることなどから、太宰が死を覚悟して勢いにまかせて書いたのではなく、長い間計画していたものだと分かりました。

物語は、主人公である大庭葉蔵の手記「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」、第三者の私の視点で描かれている最初の「はしがき」と最後の「あとがき」で構成されています。「第一の手記」では、大庭葉蔵が裕福な家庭に生まれながらも常に不安と恐怖を感じ、その本心を悟られないように道化を演じていた幼少期、「第二の手記」では酒と煙草と女と左翼思想に浸り、心中事件を起こした中学・旧制高等学校時代、「第三の手記」では、純粋無垢な心をもつ妻ヨシ子が他の男に犯され、その絶望からアルコール、麻薬中毒となり、病院に軟禁されるまでが描かれています。

作品は全編にわたって暗いトーンが漂っていますが、印象的なのは「あとがき」にある第三者の私にバアのマダムが葉蔵のことを「神様みたいないい子でした」という場面です。一筋の光のような言葉に、果たして彼は本当に人間失格だったのかと考えさせられます。

人間の生き方や存在意義を問いかける太宰治の不朽の名作『人間失格』。小説だけでなく、映画や漫画にもなり、時代を超えて今もなお多くの人々を魅了しています。

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