ディオニソスの陶酔

2021.10.25

”ひやおろし”と”秋あがり”

毎年、この季節になりますと酒販店の店先に”ひやおろし入荷しました”とか”秋あがり有ります”とか書かれたポップが出回っていますがどんなお酒の事でしょう。酒税法上では特に規定が有りませんのでこれらの定義には諸説あるようです。

お酒は温度変化により出来上がりに変化をもたらしますし、収穫した新米を使って醸造されるので以前は毎年秋口から春先にかけて新酒が仕込まれており、これを「寒造り」と呼びました(近年では冷房技術の向上などにより年間通して醸造[四季醸造]される蔵も出て来ています)。春先に出来上がったお酒を通常は貯蔵と瓶詰の前にそれぞれ2回加熱殺菌し酵母の活動を止め酒質を安定させるのですが貯蔵前の1回だけ火入れ(加熱殺菌)して冷蔵庫状態の蔵の中で一夏かけて熟成させ、酒の温度と外気温が同じ位の頃(冷)に瓶詰して出荷(卸し)するので”ひやおろし” と呼ばれるお酒の種類になります。冬に絞ったまま出荷されるフレッシュな味わいの”生酒”に比べ貯蔵の間に程よく熟成され出来立ての粗さが取れ、味わいがまろやかになるのが特徴です。

一方、”秋あがり”は夏を超えて香味が円熟し旨味が乗って酒質が向上した状態を指すと言われ、逆にうまく熟成出来なかった酒を”秋落ち”と呼ぶそうで、これらの酒を出荷する事を総称し”冷おろし”と呼ぶそうです。中には「冷」=冷たい、おろし=「あまり縁起が良くないイメージ」という事で”ひやおろし”ではなく”秋あがり”=上がって行くので良いイメージを採用する蔵元も有るとか無いとか、、、

9月に出回って来るひやおろしを「夏越し酒」と呼び味わい深くなっていますが軽快さとまろやかさを併せ持っています。10月は「秋出し一番酒」と言われ、ひやおろしの中でも味わいが良く香りとバランスが取れています。そして11月には「晩秋旨酒」と呼ばれ、ひやおろしの中でも特に円熟した味わいで濃密なとろみが特徴です。長く熟成させただけあって旨味とまろやかさがぐんと上がっています。

この時期だけの特別なお酒をお愉しみ下さい。

蓼科親湯温泉 ソムリエ 梅原

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