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お知らせ

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の一冊『愛の疾走』〜

『愛の疾走』三島由紀夫

「あくる日の月曜は気持ちよく晴れていたので、<略>諏訪神社へ散歩に行った。一口に諏訪神社と言っても、湖のまわりにいくつもあって、デルタ・カメラに一等近いのはこの下社の秋宮だけれど、もう少し西に春宮もあり、湖の向う側には、上社の本宮と前宮がある。」

三島由紀夫は、戦後の日本を代表する小説家、劇作家、随筆家です。大正14年(1925年)に東京に生まれ、小説『仮面の告白』で作家としての地位を確立し、唯美的傾向と鋭い批評精神を特質とする作品を発表し続けました。昭和45年(1970年)には自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)で自衛隊員にクーデターを促す演説をしたのち、割腹自殺を遂げました(三島事件)。

『愛の疾走』は、諏訪湖で漁夫をしている素朴な青年と、湖の向こうに建つ近代的なカメラ工場で働く清純な娘が、さまざまな障害を乗り越えて愛を育む純愛物語です。しかし、それがただの恋愛小説にとどまらないところに、三島の卓越した才能があります。三人称で進行する章の間に、登場人物のうち3人が一人称で語る章が挿入されており、一般的な小説には見られない形式がとられています。それぞれの想いと視点が重なり、物語の世界へより深く入り込むことができます。

作中には、諏訪湖、諏訪大社、御柱祭、御神渡りなどの描写が数多く登場します。日本の伝統的な暮らしや祭の風物と同時に、湖畔に建てられたカメラ工場など、産業の進歩によって失われてゆく自然の姿も描かれています。近代化の先にあるものが、必ずしも明るい未来だけではないことが暗示されています。三島は現在さまざまな問題を抱える日本の状況も見据えていたのかもしれません。
三島が描いた諏訪湖の風景は、今もなお、静かな光をたたえています。

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