お知らせ
2024.03.28
〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜
『氷壁』
「ナイロンザイルは果たして切れたのか」
昭和30年(1955年)、登山クラブ「三重県岩稜会」に所属する三人が北アルプス前穂高岳東壁登攀中、ナイロン製のザイルが切れてしまったことにより登山者の一人が滑落死するという事件が起こりました。当時ナイロン製ザイルは、これまで使用されていたマニラアサ製ザイルよりもはるかに強く、軽量で柔らかく、凍結しにくいという理由から、多くの登山者に使用されていました。切れるはずのないナイロン製ザイルが切れたという登山者の主張と製造者側の意見は対立。「ナイロンザイル事件」と呼ばれる社会問題に発展し、ロープメーカーが公開実験を実施し、ナイロン製ロープは麻製ロープに比べて数倍も強いと結果を出しました。
『氷壁』誕生のきっかけとなったのは、その結果を不服として「三重県岩稜会」が作った冊子『ナイロン・ザイル事件』の存在が大きいといわれています。井上靖は当時前穂高岳に登ったリーダーや、滑落死した登山者の兄弟などに取材を行い、昭和31年(1956年) から朝日新聞で連載を開始。翌年には新潮社より単行本を出しベストセラーになりました。
『氷壁』の中で、滑落事故が起こるのは実際の「ナイロン製ザイル事件」と同様に前穂高岳東壁です。それまで本格的な登山経験がなかったという井上靖ですが、二人の登山家が登攀する様子はいいようもない臨場感と緊迫感があり、自然の偉大さと恐ろしさがひしひしと伝わります。取材で穂高を訪れたという井上靖。先々代の社長や古いスタッフの話によると、そのときに蓼科に立ち寄り、蓼科 親湯温泉にも宿泊したと伝えられています。