お知らせ

2023.12.22

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜

『ラブカは静かに弓を持つ』/安壇美緒

2019年、音楽教室での演奏から著作権料を徴収しようとしている日本音楽著作権協会(JASRAC)が、職員を約2年間にわたって「生徒」として教室に通わせ、潜入調査していたことがニュースになりました。本作はこの事件に着想を得て創作されたといわれています。

物語は全日本音楽著作権連盟(以降:全著連)で働く青年、橘樹がミカサ音楽教室への潜入捜査を命じられるところから始まります。任務の目的は、全著連が音楽教室からも正規の著作権料を徴収するために、ミカサ音楽教室との裁判で必要になる証拠を集めることでした。橘は幼少期からチェロを習っていましたが、誘拐未遂事件がきっかけで辞めてしまっていました。けれどもこの潜入捜査がきっかけとなって、魅力的な音楽講師や生徒たちと交流し、チェロの演奏を通じて心を開いていくようになります。と同時に仲間を欺いて任務を遂行する葛藤に悩まされます。

ラブカとは、水深数百〜1500mに生息する醜い深海魚のこと。物語の中では、橘が発表会で弾く『戦慄きのラブカ』という曲のタイトルに登場します。また、同名の古い映画の劇伴であり、劇中では敵国側のスパイのことをラブカと呼んでいると教えられます。獲物が動くまでじっと深海に身を潜めるラブカ。物語はゆっくりと進みますが、潜入捜査が終わるころになると、急速にドラマチックに展開していきます。

また、音楽小説の要素も強く、橘がチェロを演奏する描写、音楽講師の丁寧な指導の様子は、情景はもちろん音までもイメージできるほどです。楽器を始めてみたい、もう一度習いたいと思わせてくれる一冊です。

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