お知らせ

2023.10.13

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜

『野菊の墓』/伊藤左千夫

「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」

『野菊の墓』は何度となく映像化され、このセリフが印象に残っている人も多いのではないでしょうか。この作品は、主人公である15歳の斉藤政夫と2つ年上の従姉・戸村民子との淡い初恋と悲しい別れを描いた小説です。

これは、二人が山畑の綿を採りに出かけたときに、政夫が民子にかけた言葉です。この言葉に対して民子は「政夫さんはりんどうの様な人だ」と返します。姉弟のように仲の良かった政夫と民子が子どもから大人へと成長し、互いの気持ちに気づき、そして好きな花になぞらえて思いを告げる様子は、初恋ならではの清々しさがあり、語り継がれる名シーンとなっています。また、世間体を気にする親に隔てられ、政夫は中学に、嫁に行った先で民子が亡くなるという悲しい結末は、多くの読者の涙を誘いました。

『野菊の墓』は歌人として活躍しながら、後人の育成にも力を注いでいた伊藤左千夫が初めて書いた小説でした。歌の師である正岡子規の写生文に影響され、明治39年(1906年)、雑誌『ホトトギス』に発表。夏目漱石は「自然で、淡白で、可哀想 (かわいそう)で、 美しくて、野趣があって」こんな小説なら「何百篇よんでもよろしい」と絶賛したといいます。以来、純愛小説の名作として多くの人に読み継がれてきました。

秋の夜長。蓼科を愛し、何度となく蓼科 親湯温泉にも訪れた伊藤左千夫の『野菊の墓』とともに、初恋の想い出に浸ってみてはいかがでしょう。

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