お知らせ
2023.09.12
〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜
『幻の華』/柳原白蓮
『幻の華』は処女作の歌集『踏絵』に続き、大正10年(1921年)に出版された第二歌集です。装丁は、『踏絵』と同様、交遊のあった人気画家の竹久夢二によるものでした。白蓮が30代半ばまでの歌が収録されています。
当時の白蓮は九州の炭鉱王伊藤伝右衛門と二度目の結婚をし、裕福ではあるものの心は満たされない生活を送っていました。白蓮は孤独や苦しみを和歌に託し、機関紙に発表。私生活を赤裸々に歌い上げる内容だったことから、本名の燁子ではなく白蓮の名を使用したといいます。
「わたつ海の沖に火もゆる火の国に我あり誰そや思はれ人は」
私は筑紫の国に悲しく暮らしていますが、そんな私に思われて真実の愛を受ける人は誰でしょうか。
『幻の華』の中に上のような歌があります。悲しみに満ちた日々の暮らしを嘆き、そんな中にもいつの日か真実の愛を注げる相手が現れるという希望が込められているように感じられます。
白蓮が3人目の夫となる宮崎龍介に初めて出会ったのは大正9年(1920年)のこと。場所は別府にある伝右衛門の別荘・赤胴御殿でした。その後龍介との恋の舞台となっていたのも赤胴御殿といわれています。世にいう白蓮事件が起こったのは、次の年、つまり『幻の華』が出版されたのと同年です。『幻の華』には、伝右衛門との悲しみの結婚生活を題材にしたものだけでなく、龍介との出会いによって芽生えた新たな白蓮の心情も詠まれているのではないでしょうか。現在、赤胴御殿の跡地には上の歌の歌碑があり、白蓮の歴史を今に伝えています。
白蓮事件の後、三度目の結婚でやっと幸せをつかんだ白蓮は、蓼科に別荘をもち龍介と2人のこどもとともに幸せに暮らしました。