お知らせ

2023.08.28

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜

『火の国の恋』/柳原白蓮

明治から大正時代にかけて活躍した歌人 柳原白蓮。
大正天皇の従妹であり、決められた人との二度の結婚、ゆがんだ結婚生活の苦悩を短歌に託して赤裸々に歌い上げ、夫がいながらも宮崎龍介とともに駆け落ちした白蓮事件・・・
当時のきびしい道徳と封建思想に挑戦し、世の中の注目を浴びた恋のヒロインです。

『火の国の恋』。このタイトルから、情熱的な恋の短歌や事件当時の話が集められているのではと思うのではないでしょうか。けれどもここで白蓮が綴ったのは、貴族階級の人間的な矛盾や歪みや、華族に生まれ富豪に嫁がされた後、自らの意志で社会主義者のもとへと走った女性の信念、そして息子を戦争で亡くした母親の平和への願いでした。

「終戦後、私は蓼科高原の家には一度も行かない。いつも幼い孫二人にその両親をつけてやって、私共老夫婦は東京で静かに夏を過ごすことに定めていた。それを今年は二日でも三日でも来たら、と山の知人の招きでとうとう十何年ぶりで四日ほど行っていた。
 ここは香織のために造った小さい山の家。その思い出がまたしても胸を痛くするだろうと思って行きたくなかったのだけれども。」

白蓮が蓼科との縁ができたのは、龍介が結核になり静養のために訪れたのがきっかけでした。大自然の中で家族とともに過ごした蓼科での生活は、波乱万丈の人生を送ってきた白蓮にとって初めての心安らぐ穏やかな暮らしだったのではないでしょうか。このときサポートしたのが蓼科 親湯温泉の二代目柳沢幸男で、別荘もすぐ近くにあったといいます。その感謝のしるしとして白蓮が贈った大きな掛け軸は、今も蓼科 親湯温泉にあり、親交の深さを知ることができます。

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