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〜蓼科 親湯温泉 幻の高山茶のおはなし01〜

標高300m~400mの地に広がる、まるでジグソーパズルのような風景。ブロッコリーのようなでこぼこした茶木が急な斜面一面を埋め尽くす春日村。この地は760年前の鎌倉時代からお茶の栽培がひっそりと続いてきました。清らかな川が流れ、肥沃な大地、そして寒暖差が激しく朝霧が立ち込める気候は、お茶の栽培に適しており、村人たちは山を切り開き耕地を広げ、お茶づくりは村の産業となっていきました。

春日村で栽培されている茶木は、品種改良がされていない自然のままの在来種と呼ばれるもので、形は不揃いな上、生え方も勝手気まま。お茶本来の味を引き出すために肥料もほとんど与えられず茶木は5m以上も地中に深く根を伸ばして岩から養分を得るためミネラルが豊富で、香りが強く、コクのある味わいが特徴です。肥料をやるとその肥料の味を求めて虫が付き、虫がつかないように農薬を撒くという悪循環を避けるため村全体が農薬を一切不使用。村のほとんどの家が一番茶しか摘まないという珍しい環境の中で、お茶そのものの味わいが楽しめる上質なお茶がごくわずかに作られてきました。

戦前までは日本で作られるお茶のほとんどが在来種でしたが、品種改良が行われやぶきたが誕生しました。栽培がしやすく、収穫時期も早く、品質も均一とあって、急速に全国に普及し、春日村でも昭和40年代にはやぶきたへの植え替えが開始。植え替えには、機械を使って地中深くまで伸びた根を抜いていましたが、山の急な斜面に広がる茶畑には、機械が入ることができず、現在も村の半分の茶畑で在来種が栽培されています。現在やぶきたは全国の茶畑の役80%を占めています。在来種は3%しか残っていない貴重なお茶になりました。

味はよいのになぜ在来種が駆逐されてきたのか……。それは戦後の効率化の波に乗っ取られてしまったからです。品種改良されたお茶は、育てやすく、一度にたくさん収穫でき、味も均質なため市場で取引されるのには都合が良かったのですね。

春日村のお茶も滅亡への一途をだどります。お茶の価格は新茶が出回る4月が一番高く、一日出荷が遅れるごとに値段が下がります。けれども春日村で作られている在来種のお茶の成長は遅く、収穫時期は5月の中旬。いくら美味しいお茶でも安い値段でしか売れないため、村人たちはお茶づくりをやめ、村には荒れた畑が目立つようになりました。

そんな中でも密かに細々と作り続けてきたお茶を当館の社長が友人のつてで紹介され、飲んでみたところ、あまりの美味しさに是非、お客様にお出ししたい!と話は進み、全国でも希少な品を親湯3店舗で販売させていただくことになりました。

茶畑の継続をあきらめかけていた村の人々も、一人、また一人と畑に戻るようになりました。担い手は90歳に手が届くようなかつての茶摘み娘達で、相変わらず少量ではありますが、少しずつ生産量も増え、村人たちの励みにもなり、何とか頑張っている状態です。

春日村のお茶を飲むと、その時は「ああ、美味しい」というシンプルな感慨なのですが、翌日になってもそのお茶の持つ不思議な力が鼻の中に残り、脳に伝達され、またすぐに飲みたい!と思うようになります。麻薬の様に癖になる何か不思議な力が働いているのか?と思わせる力強い味や香りが我々を虜にしてやみません。

正直、このお茶をいつまで供給できるか分かりません。山の斜面で機械化もままならず、手摘みで収穫する効率の悪いお茶畑を継承する若者はほとんどいません。でも私たちは可能な限り、この素晴らしいお茶を皆様に提供し続け、希少なお茶の価値を高めていきたいと願っております。

皆様も是非当館にお泊りに来ていただき、この、お茶本来の味のする希少な高山茶を召し上がっていただけたら幸いです。

→次回は、スタッフが実際に茶摘みをしに行った「和香茶」作り体験の様子をリポートします。

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