お知らせ
2026.06.28
〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊『日を愛しむ』〜

『日を愛しむ』外村繁
「いつかはなくなるはずのものが、ないのである。その寂寥感は酷しいが、恐怖はない。が、なくなるはずのものが、あるのである。私の恐怖はこの存在することの不安から発しているようである。」
外村繁は、昭和初期に活躍した小説家です。出自である近江商人の世界を客観的に描いた『草筏』で注目され、後に書いた『筏』『花筏』と共に長編三部作は高く評価されました。また、『落日の光景』『澪標』は私小説の極致と評されるほどの名作です。『日を愛しむ』は、ともに癌を発症した夫婦が、死への恐怖や悲しみにさいなまれながらも、日々を大切に過ごす様子が描かれています。外村自身が夫婦で癌と診断され、ともに闘病生活を送った実体験が基になっているといわれます。静寂の中に彼らの強い意志が感じられる美しい物語です。

『日を愛しむ』は、『落日の光景』『澪標』とともに、講談社文芸文庫に収録されています。これらの作品は、1960年~1961年にかけて上顎腫瘍で死期を悟った外村が書いたものです。『日を愛しむ』『落日の光景』は、夫婦で闘病生活をしながら、絶望と希望に揺れ動く物語。『澪標』は、幼少期から性の目覚め、初恋、三高時代、文学への志、最初の妻との生活、死別、再婚、闘病までを赤裸々に綴った、人生の総決算としての私小説です。
『澪標』には、蓼科山へ登ったという記述があり、実際に外村が登山したといわれています。『藤村詩集』などを読み、長野県に憧れていた若き日の外村。晩年になっても蓼科山の登山での記憶は鮮明に心に残っていたことが分かります。
