お知らせ

2025.10.27

~蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊『遠野物語』~

『遠野物語』

「この話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。昨明治四十二年の二月ごろより始めて夜分おりおり訪ね来たりこの話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手にはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも加減せず感じたるままを書きたり。」

『遠野物語』は、明治43年(1910年)に発表された作品です。序文にあるように、柳田が懇意にしていた小説家・佐々木境石が語った遠野地方の伝承や逸話を全119話にまとめたものです。山人、河童、狐、天狗などが登場する奇談や怪談、神隠し、人魂、予言など、不思議な現象が多く語られています。その中に遠野の雄大な自然や厳しくも豊かな風土、人々の暮らしぶりが生き生きと描かれており、日本の伝統的な民俗世界を知る上で欠かせない作品となっています。『遠野物語』は、発表当初から大きな反響を呼び、以来、柳田は日本各地の民俗学に尽力したといわれます。

柳田は、兵庫県出身ですが、旧飯田藩士の養子になったことから、墓参りや講演などで何度か飯田を訪れています。その際、伊那の民俗学の学生たちと交流し、地域の人々が受け継いできた伝承に誇りと学術的な意味を加えました。また当時、多くの作家や歌人、芸術家が訪れた当館、蓼科 親湯温泉にも宿泊したという記録も残っています。

不思議の世界と日常が入り交じる、日本の原風景を描いた『遠野物語』。自然や神と対話しながら生活をしていく人々の姿、異形のものたちが引き起こすさまざまな事象は、現代の私たちに「生きる知恵」の大切さを気づかせてくれます。

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