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2025.08.30

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜『風立ちぬ』

『風立ちぬ』

「風立ちぬ、いざ生きめやも」

堀辰雄の名作『風立ちぬ』は、自身の実体験を元につくられた作品です。『改造』の1936年12月号に『序曲』『風立ちぬ』、『文藝春秋』1937年1月号に『冬』、『新女苑』1937年4月号に『春』、そして『新潮』1938年3月号に『死のかげの谷』が発表されました。

冒頭に登場する「風立ちぬ、いざ生きめやも」とは、ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』の一節『Le vent se lève, il faut tenter de vivre.』を堀が訳したもの。「風が吹く、生きねばならぬ」という覚悟と、その先に訪れるであろう死に対する不安が入り混じって出た一節だといわれます。

舞台となるのは、蓼科 親湯温泉にも近い富士見高原療養所です。豊かな自然に囲まれた高原の中に佇むサナトリウムへ、結核に冒されている婚約者、節子が入院します。節子のモデルとなったのは、堀と婚約していた矢野綾子でした。実際は、堀も一緒に入院していたのですが、物語の中で主人公は付き添い、残された時間を節子とともに過ごします。

堀は情景や風景描写が巧みなことで高く評価されています。特に『風立ちぬ』は悲劇的な題材にもかかわらず、悲壮感や絶望感がなく、作品全体に明るい透明感が漂っているのは、情景の描写の素晴らしさが際立っているからだとも言われ、また、三島由紀夫にも、西洋文化の影響を受けた独創的なスタイルだと称賛されました。

たしかに『風立ちぬ』を読んでいると、美しい情景が目に浮かびます。今もなお当時と変わらぬ風景が残る富士見高原へ。主人公と節子、堀と綾子が過ごした美しい風景を訪れてみませんか。

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