お知らせ

2025.07.28

~蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊~

『施療室にて』

「女よ。未来を信ぜよ。子どもへの愛が深いのならば、深いがゆえに、闘いを誓え。」

平林たい子は、長野県諏訪市(旧諏訪郡中洲村)出身の女流作家です。12歳のときにロシア文学を読んで作家を目指し、上諏訪町立諏訪高等女学校(現在の長野県諏訪二葉高等学校)卒業後、上京。アナーキスト芸術家らから影響を受け、朝鮮や満州を放浪した帰国後、昭和2年(1927年)に『施療室にて』を執筆しました。そして、痛烈な生活をリアルに描いたことからプロレタリア作家として認められました。

『施療室にて』は、アナーキストである山本虎三とともに満州を放浪したときの実体験を素材に書いたものです。当時、たい子は妊娠しており、大連の施療院で女の子を出産しました。妊娠脚気を患っていたたい子は、子供に母乳ではなく牛乳を飲ませたいと思っていましたが、やむを得ず母乳を与えます。その罪悪感を打ち消し、未来のためだと自分に言い聞かせなければいけない悲しさ。始終暗く殺伐としたトーンですが、子供の描写だけほんのりと明るく、たい子の愛情が感じられるのが印象的です。

第二次世界大戦後は、たい子は反共・右派色を強め、転向文学の代表的作家としても知られています。闘いの先にたい子は何を見たのでしょうか。そしてなぜプロレタリア文学から転向したのでしょうか。戦後の作品と合わせて読みたい一冊です。

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