お知らせ

2025.06.28

~蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊~

『桜桃』

「子供より親が大事、と思いたい」

日本を代表する作家、太宰治の作品です。昭和23年(1948年)に雑誌『世界』に発表されました。『桜桃』とはさくらんぼのこと。太宰がとても好きな食べ物だったといわれています。

けれども、内容は、男親が子育てに疲弊する夫婦の様子を男親目線で描いたもので、このかわいらしいタイトルとはずいぶんかけ離れたものです。特に、4歳になっても歩行が困難で、一言も話さない長男については、長い間夫婦の悩み事となって、始終重い空気が漂っています。

冒頭の「子供より親が大事、と思いたい」は太宰の願望。本来は、「親よりも子供が大事」なのは、太宰自身も分かっているけれど、その大変さからやりきれない思いがつぶやかれているのです。

作品の中で、当時贅沢品であったさくらんぼが登場します。主人公は子どもたちに持って帰ってやったらどんなに喜ぶだろうと思うのです。そして主人公がとった行動とは・・・

『桜桃』が発表された年の6月13日、太宰はこの世を去りました。遺体が発見されたのは6月19日のこと。この日は太宰の誕生日でもありました。そのため太宰の仲間が『桜桃』にちなんで6月19日を「桜桃忌」と命名。それから毎年仲間たちが集まりさくらんぼをつまみながら酒を酌み交わし太宰を偲んでいました。また、墓所のある禅林寺(東京都三鷹市)には、現在も全国からファンが集まり、たくさんのさくらんぼが供えられています。

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