お知らせ
2024.10.29
〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜
『蜜柑』

日本を代表する小説家の一人、芥川龍之介。芥川の生涯は短く、明治25年(1892年)に東京で生まれ、昭和2年(1927年)に自らの手で命を絶ちました。35年という人生の中で、150ほどの短編を執筆。名作の数々は、日本の近代文学に多大な影響を与え、今でも多くのファンに読み継がれています。
大正8年(1919年)に発表された『蜜柑』は、芥川中期の傑作とも称される名作です。当時の芥川は結婚したばかり。大阪毎日新聞社の客外社員になるなど、生活も安定していました。この作品は、その数年前、芥川は鎌倉に下宿し、横須賀の海軍機関学校で英語の教官として勤務していたころに、横須賀線で実際にあった出来事だといわれています。
作品の中に登場する2つのトンネル「吉倉トンネル」「長浦トンネル」や踏切「田の浦踏切」は実在しています。また、横須賀線沿いにある吉倉公園には『蜜柑』の文学碑が建てられ、その両脇には、芥川の子供たちが植樹した2本のミカンの木が植えられ、物語を今に伝えています。
芥川の作品は、暗い話と明るい話に大きく分けられます。暗い話は『羅生門』『地獄変』、そして明るい話は『鼻』や『あばばばば』などです。『蜜柑』は、暗いトーンで始まりますが、最後は一瞬にしてシーンが色づき、清々しく終わる、明るいタイプといえるでしょう。
どんよりとした気持ちを吹き飛ばし、気持ちを前向きにさせてくれる、そして、甘酸っぱいミカンの味が恋しくなってしまう・・・そんな作品です。
