お知らせ
2024.06.28
〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜
『荊棘の実』
柳原白蓮は、大正三美人の一人、「筑紫の女王」、若い男性と駆け落ちした「白蓮事件」の主人公として知られ、自由奔放な女性というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
けれども、白蓮が書いた自叙伝である『荊棘の実』を読み進めていくうちに、これほどまでに美しい人が、さみしく心もとない生活を送ってきたのかと驚かされます。伯爵の家に生まれながらも本妻の子ではなく、養子に出されて15歳で結婚。一子を出産した後に、離婚。実家に帰り、福岡の炭鉱王と再婚するものの、そこでも自分の居場所を見出すことができずに、宮崎龍介と恋に落ち駆け落ちしました。
これは、白蓮が生まれてから福岡を出ようと決意するまでの数奇の半生。自分が何ものなのかも分からず、辛くてもどこにも帰るところがないという、悲しみと苦悩の日々が綴られています。巻末にある、龍介への手紙の返事「京都で逢いましょう」は、暗い過去への決別。一つの物語が終わることを現しているのではないでしょうか。
けれども、一度目の結婚に終止符を打ち、実家に帰って女学校の寄宿舎で暮らしているときの白蓮だけは生き生きと、とても充実した生活を送っているのが分かります。「澄子と春子」の章にも見られる、澄子(白蓮)と春子(『赤毛のアン』の翻訳をした村岡花子)とのかわいらしいやりとりは白蓮の心を癒していたのでしょう。花子との友情はいつまでも続き、本書の校正に至っても花子が尽力し、さらに巻尾にも親友ならではの温かい文章が添えられています。