お知らせ

2025.11.29

〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊『こころ』〜

『こころ』

「悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は、世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」

『こころ』は、大正3年(1914年)に、「心 先生の遺書」として『朝日新聞』で連載され、同年9月に岩波書店から刊行された長編小説です。
物語は、語り手である私、その私と鎌倉の由比ヶ浜で出会った先生を中心に進みます。先生は、私に上のように語ります。誰もが内面に善と悪を抱えている。誰にでも自分を優先して、悪人になってしまうことがある・・・。そして先生は自らがそうなってしまったことをずっと後悔し続けていました。

漱石はイギリス留学の際に、西洋の個人主義的な考え方に接して衝撃を受けたといわれます。近代的な考え方に染まることはできなかった漱石は、明治天皇の崩御、乃木希典の殉死に影響を受け、作品の中でこれまでの考え方を、先生とともに昇華させようとしたのかもしれません。

まだ小さな古本屋だった岩波書店の店主である岩波茂雄を応援したいと考えた漱石は、装丁も自身で担当。また、それに応えるように岩波も予算を考えず細部にこだわり、渾身の作品に仕上げました。『こころ』は大ヒットし岩波書店はその後日本の出版業界を牽引する会社となりました。

蓼科 親湯温泉には、諏訪出身の岩波茂雄の功績と館主の岩波文庫への想いから、「岩波文庫の回廊」があり、『こころ』をはじめとする数々の名作が並んでいます。

_category

Archive