お知らせ
2025.02.26
〜蓼科 親湯温泉よりお届けする今月の1冊〜
『阿修羅のごとく』
「ね、何か思い出さない?お餅のひび割れ、見て――」
「お母さんの踵!」

向田邦子の名作『阿修羅のごとく』が初めてドラマ化されたのは、昭和54年(1979年)と昭和55年(1980年)のことです。その後、脚本が文庫化され、平成15年(2003年)には森田芳光監督によって映画化、翌年に舞台化、さらに今年Netflixで再ドラマ化されました。
向田邦子は、『七人の孫』『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』など、数々のテレビドラマの脚本家です。また、小説やエッセイも多数手がけ、昭和55年(1980年)には、短編連作『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』で直木賞を受賞しました。翌年、取材旅行中に航空機墜落事故で死去。その後も、新春シリーズや終戦特別企画シリーズとして、向田作品を基に作られたテレビドラマが放映されていました。
『阿修羅のごとく』の時代設定は、昭和50年代。それぞれに性格の全く異なる四姉妹を中心に物語は進みます。さまざまな隠し事や秘め事を持つ姉妹が、日常の中でふと見せる阿修羅の顔。女同士、姉妹であるからこそ感じてしまう競争心や嫉妬。一見穏やかなホームドラマのようにも見えますが、毎回気づかされるおもしろさや切なさ、そして恐ろしさがあります。
四姉妹は揉めたり罵り合ったりしながらも、決着することも決別することもなく、日々が続いていきます。誰が正解でも誰が間違いでもない。誰にも事情があり、一面だけを見ても何も分からない・・・だから四姉妹の誰かに自分を重ね、感情移入することができるのです。
また、映画でも、再ドラマでもセリフが忠実に再現されている点に驚かされます。作り手による向田邦子に対する憧れとリスペクトを感じることができます。ぜひ映像とともにお楽しみください。