ディオニソスの陶酔
特定名称酒
私と同年代の方や先輩方には、特級、一級、二級などの級別の日本酒区分があったことをご存知だと思いますが、現在では『特定名称酒』という区分に変わってしまいました。以前の級別は特級(品質が優良な物)、一級(品質が佳良な物)として、蔵元が販売予定酒のサンプルを国税庁の審査に出品し決定していましたが、色や香り、味に欠点があると減点になってしまうため、必ずしも消費者が望む個性的な商品という訳にはいかず、さらに、作り手の酒蔵も税率の安い二級酒扱い(特級及び一級に該当しない物または審査を受けていない物)とする「無監査酒」として販売していたという矛盾が生じてしまい、二級酒なのに特級酒よりも品質が良い商品が存在するという状況になっていました。当館での取り扱いはございませんが、現在でもロングセラーとして販売されている宮城県の一ノ蔵さんの商品で、その名も『一ノ蔵無鑑査』という商品は等級制度廃止のきっかけになった商品として知られています。
こうなりますと、本来徴収できる正当な税収を逃していました国税庁も黙ってはいられない(?)ということもあってか、1992年に級別制度を廃止し、『特定名称酒』という制度が導入され、現在では『大吟醸酒、吟醸酒、純米酒、本醸造酒』などの呼称に変わりました。
通常の製法では、お米を70%以下に磨き醸造しますが、『吟醸酒』ではお米を60%以下、『大吟醸酒』は50%以下まで磨き混み、雑味を無くして低温で1ヶ月ほど、ゆっくり時間をかけて発酵させる吟醸造りという製法で造られるお酒です。いわゆるスッキリ端麗な本醸造系のお酒に対し、香りが特徴の滑らかな商品になります。ちなみに通常、私たちの食べるお米は90~95%程度しか磨いていないそうです。この磨きの割合のことを『精米歩合』と呼びラベルに記載されています。ちなみに、『純米酒』にはこの『精米歩合』の規定がないため、中には90%や80%の精米など、お米本来の旨味を感じられるお酒も人気上昇中だそうです。
吟醸系のお酒は主に香りが高いので、お燗をして温度を上げてしまうと香りが立ちすぎ逃げてしまいますので、通常は冷か常温で提供される方がお勧めですが、純米系や本醸造などはお燗に向いていると言えるでしょう。ただし、これはあくまでも飲まれる皆様のお好みですので、絶対にダメということではありません。
また、吟醸系のお酒でも頭に『純米』とついている商品は文字通りお米と水だけで造られており、ややふくよかな個性のお酒になり、ただの『大吟醸』や『吟醸』は香りや味わいを調整するため、微量の醸造用アルコールを添加していますので、純米系よりもスッキリ端麗に仕上がっている商品が多くあります。
次回、日本酒を飲まれる際には、これら歴史の背景も感じながらお愉しみください。
蓼科 親湯温泉 きき酒師/国際きき酒師 Ver.English 梅原